
和田義典・若山幸雄
(株式会社環境・建築設計)・建築家
水の流れで導こう。
そこからチャレンジは始まった徹底的に議論した
「江戸染色工房・再生プロジェクト」にとって、敷地全体をどのように設計するかは大きな課題だった。ランドスケープも含めて、地域の環境とどのように調和させていくか。二葉苑という歴史のある工房を現代建築の中でどのように生かしていくか。それがプロジェクトの成否を大きく左右していくことになる。
「私たちにとっても職人の工房を手がけるのは初めてことでした。躯体というハードと染色というソフトをいかに合理的に、そして二葉苑のポリシーを表現していくかを徹底的に議論しました。」
と、環境・建築設計社の若山幸雄(写真右)さんは言う。マンション設計などで実績を残してきた同社でも「初めての挑戦」(和田義典副所長・写真左)だった。
妙正寺川にせせらぎを
和田さんと若山さんが初めて二葉苑を訪れたとき、2人の心をとらえたのが妙正寺川の川音だった。創業当時は河川整備がされておらず、自然のせせらぎが聞こえていたそうだが、今は川底もコンクリートで固められている。だから本来はするはずのない川音なのだが、偶然にも二葉苑の裏手にはちょうど川底に段差が作られており、常に水が落ち込む音がする。2人はその川音に惹かれていった。
「水の流れによって人を導こう。」
というのが2人の結論だった。入り口からギャラリーにかけて人工的に水の流れを造った。そこには水草をいれ、金魚などを泳がせる。環境建築設計社の所長・宮坂正寛氏の提案により夏には「ホタルを復活させたい」と考えている。訪れた人が中庭で寛げば、小川のせせらぎが聞こえてくる。夜はホタルの光だ。
水音に、柳の植え込みと竹林。そして真っ白い近代建築。周囲のちょっとレトロな風景ともマッチしている。周辺の家々を借景として溶け込む新しい二葉苑は2人の代表作になりそうだ。

金周會
書藝家
動きがあっても不動、
人の心に根付く文字を目指した自分の『心』を表現したい
「書というのは、書く人の気迫を発するものです。日本で初めて日展を見たとき、作品が発する光が交錯していました。強い衝撃を受けました。」
と、金さんは振り返る。初めての日本で見た「日展」は書家たちの気迫であふれている。圧倒された金さんは「良いのか、悪いのかが判断できなかった」と言う。
1985年当時、金さんはソウルの国立芸術殿堂で書を学んでいた。「24時間書藝漬け」という生活をしていたが、そのとき見た日本の書家、手島右卿(昭和の三筆と言われた書家)の作品に衝撃を受ける。草書で書かれた『虚』。解説には「ある舞台を見て感じたことを表現した」と書かれていた。古典を学ぶのも書。感性を表現するのも書。金さんは自らの心を表現したいと考えた。
静寂の中に躍動感
金さんが描いた「二葉苑」の文字。優麗でいて骨太、そして何かを語りかけてくれるようだ。一つひとつの文字から受ける印象もまったく違う。
「動きがあっても不動、一本筋が通っている。訪れた人の心に根付く文字を目指した」と金さんは言う。「二」の文字は1画目に「静」、2画目に「動」を表現した。その「動」を受けて、2文字目の「葉」は一気に突っ走る躍動感に満ちている。そしてダイナミックに描いた「苑」で結んだ。文字が一定のリズムで流れているのではない。イントロからサビ、サビからクライマックスへという旋律が流れているようだ。たった3文字の中に静寂と躍動感。繊細だが強い意志が表現されている。
「書は何千年の歴史があります。それを未来につなぎ、そして世界に伝えていくことが私たち現代の書藝家の使命です」という。それは江戸染色を受け継ぐ二葉苑の思想そのものだ。「常に歩み続けなければならない」という金さんの言葉が印象的だ。金さんの作品は二葉苑と共に歩み続ける。

橋本夕紀夫
インテリアデザイナー
歴史が積み重ねられた、
空気感を大切にしたかった。空間に漂う空気が人々の心を動かす
「空間の中でいろいろなものが常に変化している。その瞬間を疎かにしたくない。」
インテリアデザイナー・橋本夕紀夫さんは「空間とは瞬間、瞬間で常に変化するもの」と言う。床、壁、天井、ソファやテーブルによって生み出されるインテリア空間は単なるマテリアルの組み合わせではない。「時のうつろい」を楽しむ人々の営みであり、漂う空気がそこで過ごす人たちの心を映す。美しさを追求することだけがインテリアデザインの目的ではないのだ。
橋本さんの仕事は私たちをホッとさせる力がある。それは懐かしさなのか。日本人のDNAがそう感じさせるのか。海外の人たちが感嘆することを考えると、それは橋本さんの言う「空気感」の力なのかもしれない。
伝統とは「未来につながるもの」
「床は土間、壁は漆喰、天井は板にします。門のところは回廊をイメージして情緒的に仕上げました。」
と橋本さんは言う。
二葉苑の内装設計に当たって橋本さんは、何よりも「二葉苑が長く受け継いできた空気感」を大切にした。大正時代より伝統技術と共に歩んできた工房は、どんな施設よりも職人たちの匂いが香り、引き継いだ技術が江戸の昔の面影を感じさせる。橋本さんは何よりもその独特の「空気感」を残したかった。
「だからギャラリーに土間を作った」。今の時代に室内に土をもってくることはあまりない。昔の民家の再現だ。漆喰壁も板天井もそうだ。二葉苑を訪れた人たちが無意識のうちに、江戸の昔に想いを馳せながら現代の職人たちに接することができるだろう。
「伝統とは受け継ぐばかりではない。未来へとつないでいくものです」という橋本さん。その言葉が新しい双葉苑のそのものを表現しているのかもしれない。

西脇龍二
クリエイティブディレクター、華道家
すべては一枚の写真から始まった人の手によって伝承されていくもの
「今ままで、職種的に表に出なかった染色の仕事。それをどのようにイメージづけていくか?」。二葉苑のブランド化に向けて総合プロデュースを担当した西脇龍二さんは悩んだ。「小林社長の熱いトークとともに見せていただいた、昔の職場の職人さんの写真がとてもいい。『染の仕事は江戸の昔から変わってないんですよ』と言われた言葉も心に残った」。その写真には創業当時の二葉屋で揃いの半纏を着た職人たちの生き生きとした表情が写っている。「そうだ! 新しいことなんて何もいらない。二葉苑を素直に表に出して、形にすればいい」。そう思ったらいろんなイメージが湧いてきた。染の細かい部分にも目がいくようになって。今回テーマにした、更紗の最初の行程の糸目を使ったのも・これから始まる・っていう思いを込めたんだよね。
原点を知り、未来への道を拓く
西脇さんは、雑誌のアートディレクションや広告制作などを経て、クリエイティブディレクターとして独立。企業や商品のイメージ戦略・企画・立案をてがけてきた。
その一方で華道家の一面も持つ。自由で大胆な発想の自由花と古典華を併せ持つ龍生派の師範としても活躍している。また「和文化」に対する造詣も深く、とくに着物においては知識もさることながら、ファッショナブルな着こなしで各方面から注目を集めている。
西脇さんは「江戸の職人文化のグローバル性を表現したい」と、新たなロゴを金さんに書いてもらった。また新たな旅立ちの軸として「二葉苑コンセプトブック」を制作。歴史を受け継いだ姿と未来へと紡ぐ江戸染色の姿を表現した。

